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Author:N
東北出身関東在住
趣味は旅に出る事

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エンバーミング
狂人と死体と協力者
自分にとってはこれでもBLです。

虹だけど殆ど虹でない気がしてきた。
ファンに頃されそうです><




 異臭は益々酷く成って来た。
 彼は嗅覚もすっかり麻痺して仕舞って居るのか、今日もあのベッドに、平気な顔で突っ伏して居る。其れ所か、時折笑いかけたり話しかけたりして居る様だ。
『あの子が暑がると不可ないから……』
 全く馬鹿げた話だが、こんな嘘でも容易に信じてしまう。馬鹿らしいと思われるかも知れ無いが、兎に角何でも良いから理由を付けなければ、彼が五月蝿いのだから仕方無い。あの日からずっと入れた侭にして有る冷房は、始めから分かって居た事だが、腐敗を遅らせる事はできても、矢張り、腐敗其の物を止められそうには無かった。
 其れにしても、設定温度は設定出来得る限り下げて居る筈なのに、毎日薄着でその場に入り浸って居る彼は、頭が狂って仕舞っただけでなく、温度感覚も何処か可笑しく成って居るのだろう。
 何もかも、あの子が逝って仕舞った時から狂って仕舞った。
「……」
 何を言って居るのかは分からないが、何か喋っている声が聴こえる。
 恐らく又、あの子に話しかけて居るのだ。普段の、否、以前の彼からは想像出来ないような屈託ない笑顔で。
 然う言えば、此の間は珍しく屋外に出たなと思ったら、庭先に置いて有る、あの子が世話して居た小さなプランターの花を毟り取り、其れであの子の枕元を飾って居た。その時様子等、今思い出しても胸焼けを起こしそうな心地がする。赤黒く変色しても尚、ベッドに上品に横たわる死体の枕元にささやかに花を飾り、彼はベッドのすぐ側に置かれた椅子に座って、ベッドに突っ伏して眠って居た。暫く、あの子の顔でも眺めて、其れから自然に寝入って仕舞ったに違い無い。其の様な流れは、別段珍しい事では無かった。
 しかし、其の情景は何時見ても異様でしか無く、幸せとはほど遠い物に見えたが、ちらりと見えた彼の表情は、此れ以上無い程幸せそうだった。
 だが、あの子を誤摩化しておけるのも今日迄だ。腐敗は確実に進んで居る。鼻をつ突く様な異臭が其れを物語って居る。
 若し自分が此の事実を無視出来たとしても――彼は既に事実を無視して居るので除外する――自分と彼を除く此の世の中の真っ当な人間が、此の事実を無視して居て呉れる筈が無い。あの子は死んだ。けれど、其の死は、未だ誰にも知られては居ない。誰にも知られては不可ない。此の事実を知った誰かが、若しくは其の誰かに頼まれた誰かが、彼からあの子を取り上げて仕舞う事は何としてでも避けなくては不可ない。
 あの子が居なくなった、その事実に彼が気がついて仕舞ったら――尤も、既に壊れて仕舞って居る彼に、今更正気に戻るかも知れ無い等と言う心配は要らないかも知れない――どう成るか……。これ以上、否、今とは違う方向に発狂して、自殺等するかも知れない。想像出来ない様な奇行に走るかも知れない。其れは、実際起こってみないと何とも分から無い。
 だが、何より自分が恐れて居るのは、『彼が此処から居なくなって仕舞うかも知れない』と言う事柄、唯其れだけだ。
 其れだけの為に、僕はあの子の亡骸も丁重に扱うし、彼にも当然親切にする。あの子がもう此処には居ないのだと言う事実も見なかった事にする。あの子は日常に疲れて仕舞って、今は唯眠って居て、暫くすれば目を覚ますのだと彼に言うし、自分にもそう言い聞かせる。
 此れが僕が彼に出来得る精一杯の愛情表現だ。此の愛は報われる事は無いだろうし、正直言えば期待してすら居ない。単なる自己満足だ。
 あの子が彼の全てだと言うのだから其れも仕方あるまい。

 あの子は彼の全てだ。あの子が生きていた時は、全く彼らしからぬ冗談だと思って居た。確かにあの子に対する彼の執着は他の人に比べてみれば過剰では有っただろうが、全てだと言い切ってしまう程凄い物だと想像出来なかった。彼は前にも似たような事を口にしたが、その相手に先に逝かれて仕舞った時、直後、暫く荒れはしても其れ以上でも其れ以下にも成らなかった。
 それを見てきたのだから、今度こそ『全てだ』と断言された所で、その言葉の意味を言葉通りに受け取る事など出来なかった。
「…起きないんだ」
 其の言葉が彼が僕に言った最後の言葉だっただろうか。それきり彼は喋らなくなった。あの子には時々話しかけているようだが、言葉を成しているのか分からない。あまりにも小さくて聞き取れないのだ。
 呼ばれるまま、あの子の部屋に行き、ベッドに横になって居たあの子の息を、脈を確認して、どうすべきか暫く考えた。彼は何やら言いたげに、小さな子供のように僕のシャツの袖を引く。
 あまり悩んでいる時間はなさそうだった。
 そして思い切って口にした言葉は簡単だった。
「よく眠ってるよ」
 彼は信じた。
 そして、僕は今日も彼に嘘を付き続けている。
 あの子はよく眠っている。時折少し起きるようだけれど良く眠っているから、静かに眠らせてあげなくては不可無いと。
 本当は嘘ではない。良く眠っては居るのだ。唯、事実とは違うのは、決して起きないと言う事だけ。

 ドアを開けた瞬間に漂って来た酷い臭気に、思わず眉間に皺を寄せる。それでも、開けない訳には不可無い。
 彼は未だ嬉々としてあの子に話しかけて居るが、時刻は既に深夜二時を回って居た。幾ら、彼が現在休業中だとは言え、此の時間だ。いい加減寝かしつけなくては不可無い。それに、やらなくてはならない事が有る。
 彼の肩に触れ、名前を呼んだ。
 意識が、一瞬あの子の方から僕に移るが、相変わらずの無表情だ。言葉も無いが、若しかすると邪魔するな、と言いたいのかもしれない。
「夜も遅いし、そろそろ静かに眠らせてあげないと可哀想そうだよ」
 と、今と成ってはお決まりの、しかし有り得ない文句を並べ、彼を部屋から移動させた。其の侭、浴室に誘導する。臭気が全身に染み込んで居るから、入念に洗わないと不可無いのだが、残念ながら其れを手伝ってやる暇は無かった。
 脱衣所に彼を置き、着替えを渡してから、僕はあの子の部屋まで急いで移動した。彼の入浴時間はおよそ二十?三十分。其の間に、いつもの処置を終わらせなくては成らなかった。
 あの子の眠るベッドの下から、ありとあらゆる防虫スプレーや布用の消臭剤等を取り出し、あの子に直接スプレーを振り掛けるのだ。それこそ、一度で一缶も二缶も使いきって仕舞う程に。
 腐ってしまうのは仕方ない。けれど、蟲が沸くのだけはなんとしても止めなくては、と最初から今日までずっと行って来た事だ。効き目が確実にあるのかは分から無かったが、未だ蟲の形跡はない。
 腐臭のせいで、込み上げてくる吐き気を必死に止め乍ら、彼に気がつかれないうちに、その作業を済ませなくては成らなかった。そして、何事も無かったかの様にその場を後にし、すぐに、短時間でも染み付いて仕舞う様な臭気を、シャワーで追い出し、清潔な服に着替えて、眠る。
 但しその日はいつもと違って居た。ふとした拍子で、あの子の肌に触れて仕舞ったのだ。
 音を付けるとすれば『ずるり』とでも言う様な、そんな手に触れた感触に驚いて、思わず、処理も半端な侭、逃げる様にして部屋を出て来て仕舞っていた。寒気がして、手を洋服に思い切り擦り付けた。けれど、感触が、手から離れてくれない。感触どころか、あの子の臭い、体液さえ、触った所から体の中に一瞬でしみ込んで仕舞ってもう取れない者の様な気さえする。
 想像して、思わず催した吐き気に、トイレへと急いだ。しゃがみ込み、胃の中の物を吐き出した。数分程放心して居たが、そうしては居られない。口の中を濯ごうと立ち上がった所で、ドアの開く音がした。彼が出て来たらしい。
 これから、僕は、いつも、丁寧に彼の髪を乾かしてやり、決して広くない自分のベッドに寝かしつける。それから、自分もシャワーを浴びる。
 だが、あの子の処理は未だ終わっていない。だからと言って、あの子の元へ戻っては、いくら彼でも不審に思うだろう。いや、本当はもう、あの部屋に戻りたくないだけだった。其れ程にあの感触は……。
 まずは、手を洗い、口を濯ぎ、彼を寝かしつけてからシャワーを浴びるべきだ。考えるのは、其れからでも遅くない筈だ。

 けれど、僕はそれから、其の部屋に中に足を踏み入れる事が出来なく成った。
 其の部屋に入ろうとするだけで吐き気がするのだ。だが、異臭のせいでは無い。異臭の所為で有るならば、こうやって、ドアを開けて中の様子を外から伺える筈が無い。
 僕が入れ無くなった所為で、恒例で有った処理は一切行われなく成った訳だが、室温が低いという事が救いに成って居るのか、遠目に見た限りで何か蠢いている様な気配は見受けられ無い。
 彼は今日も、嬉々としてあの子に話しかけて居る。
 彼は、本当は気が付いて居るのかも知れ無い。既にあの子は死んでいると。そうだとすれば、唯、事実を認めたくないのだろう。あの子があそこに居るから。
 そう思わせて仕舞ったのは、あの子をあの場に留めて居る僕の所為でも有る。けれど、あの子がもう居ないのだと、認めざるを得なくなったら……、彼は正気に戻るだろうか。
 僕は矢張り、狂って仕舞う前の、まともだった――彼の風変わりな性格上、まともではない、と言う者も居たが――彼が好きだったのだと思った。
 嬉しそうにあの子の名前を呼ぶ彼の姿を眺めていたら、――それまでは全く気になら無かったと言うのに――急に居たたまれなくなって、僕はドアを占めるのも忘れてその場所を立ち去った。
 そして、暫くして戻った。
 吐き気を我慢して部屋に立ち入る。彼は僕の行動に気がついていないのか見向きもしない。
 部屋に入った瞬間。襲って来た酷い吐き気は、頭痛も誘発させた。まるで、あの子が僕を拒んでいるとでも言う様だった。彼とあの子の世界に、立ち入るなとでも言う様だった。
「 」
 彼の名前を呼ぶ。呼ばれて、振り返ったかどうかは知らない。多分、僕には目もくれ無かっただろう。それほど、彼はあの子しか見ていないのだ。
 僕は吐き気に耐えるのに必死で確認している暇など無かった。
 あの子に、あの子のベッドに油を撒く。そして、火を付けたライターを、落とす。
「いいか。……これが現実だ」
 殆ど叫ぶ様に言い放った。
 彼が喚いて居る。必死に、炎を消そうともがいて居る。全く馬鹿らしい。例え、あの子を燃やし尽くす炎が消えたとしても――とっくに死んでいるのだから――あの子が助かる訳は無いのに。
 折角、もう息をしていないのだと、熱がる事も痛がる事も無いのだと、火を付けてまで証明したというのに、彼には全く意味が無かった様だ。
 吐き気が引いたと同時に、込み上げて来た笑いは、止まら無かった。
 止まらない所かどんどん大きく成って行く。あまりの音量に自分の鼓膜さえ破って仕舞いそうだ。否、もう鼓膜等破れて仕舞って無いのかも知れ無い。音が、大き過ぎて聴こえ無い。其の代わり、脳に、頭の芯に響く様な、振動に変わる。
 ついに、僕は、笑って居るのか、それとも彼の様に喚いて居るのか、立って居るのか座って居るのかも分からなくなって来た。溶け出して背景と同化する様だ。

 ――そして、目が、覚めた。
 ああ、僕はどうして居たっけ、そんな事を考えて部屋を出る。飲み物を取りに階段を降り、台所に向かう。
 台所には既に先客が居た様だった。
 僕の顔を見て、僅かに驚いた様だが、すぐに胸を撫で下ろした。
「りっちゃん、どうしたの?」
「喉が乾いたから」
 他愛もない会話。あれは夢だった。夢に違いなかった。現実である筈が無かった。限にあの子はこうして、生きて此処に居る。若しあれが現実で、こっちが夢だったら……、そんなこと有る筈もない。
「……」
 試しに、肌に触れてみる。月並みな方法だが、夢ならば、何も感じない筈だ。僕の手の平から感じられる感触――あの子の感触、体温、脈――は、紛れも無い現実だ。
「ねえ、りっちゃん」
 夢の中のあの子は、感触も、体温も、脈も感じられなかったのを覚えている。それなのに……、
「……どうして生きてるの?」
 手に力を入れてみる。手中に有る皮膚の抵抗、圧力。あの子の必死の抵抗、小さな呻き声。握力を上げる。
 そして、ついに動かなくなった。

 彼が狂って仕舞ったのはあの子が逝ってしまったから。僕が狂ったのはあの子が逝って、彼が狂って仕舞ったから。
 ――否、僕はもう最初から狂っていた。
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ss(虹) CM(2) 

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  2011/12/08 03:52 # EDIT
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  2013/02/07 15:10 # EDIT
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